風の十二方位

SFとファンタジーの短編集。全17作品。基本的に初期の作品なので、『ロカノンの世界』や『闇の左手』、「ゲド戦記」に繋がる話も本編である長編よりも前に書かれていたよう。世界観を作り、短編を書き(この順序は逆かもしれない)、そしてその世界を舞台とした長編を書く、という過程の初めの部分を見れたことになるのかも。
ル・グインを読んで感じるのは、ファンタジーとSFのカテゴリーの曖昧さ、あるいはそのカテゴリーの重なり具合の深さ。SFのガジェットがあるか、ファンタジーの道具立てがあるか、の違いだけで後は「ここではないどこかの世界」の話なのだから、当然といえば当然といえる。
個人的には本人がもっとも「ハードコアなSF」と称している「九つのいのち」と、「純然たるSF」としている「帝国よりも大きくゆるやかに」(これはタイトル自身にもしびれた)、終わりのない、心をえぐられるようなユートピア世界が舞台の「オメラスから歩み去る人々」が良かった。
世界観に入るのが苦手なゆえに、やっと世界観に入った、と思ったら唐突に終わってしまう短編集が苦手なことと、昔のハヤカワの1頁当たりの文字数と行間が、目の状況が悪化した状態で非常に読みにくかったことで、非常に時間がかかった。