タフの方舟・1(禍つ星)

タフの方舟1 禍つ星 ハヤカワ文庫SF

タフの方舟1 禍つ星 ハヤカワ文庫SF

まじめで人に触れられるのを忌避し、猫を愛する巨漢の真っ白い主人公が、ちんけな商人から惑星の生態系を改造する手段を手に入れて、とりあえず人々をなんとか救うようになる、という話か。惑星側の思惑と、思惑がありげでいながらまったくそのような裏はない主人公との、政治的やりとりと、その解決策がそれなりに魅力的、ではあったが、再読する気があるかと聞かれると、それほどでもないのは、主人公の話し方がしばらくすると鼻についてくるから。
人類が宇宙に出て千年以上たった世界、千年前の大戦争でそれまでの技術が失われてしまった世界で発見されたロストテクノロジーの方向である宇宙船「方舟」が、生物兵器の宝庫となっていたことは皮肉が効いている。そしてそれをよい方向で使っていく主人公によって、本来の意味での「方舟」になったのかもしれない、遺伝子工学駆使しての「方舟」だけれども。
同著者の「氷と炎の歌」シリーズでの訳に問題が噴出していた訳者によるものなので、初めから色眼鏡で見てしまったのはしょうがない。主人公の話し方は原著でもあんなに下手に出ているような感じなのか、疑問も残る。そうでなければ作品の印象も変わるわけで、訳者というのはどこまで作品に手を入れることができるか、という問題もある。ひとつ前の『啓示空間』でも確かに登場人物によって話し方が違い、それによって個性を掴むことができたが、その程度は(個人的な感じ方としては)ギリギリ許容範囲だと思ったが。
一部「てにをは」がおかしくてあれ? と止まってしまうことがあったがこれは訳本としてはありがちなのでいいとしても、明らかに間違った箇所が2箇所あったのが残念。タフがまだ方舟に乗り込んだばかりの時に自分の宇宙船を「方舟」と呼んだり、海で発生しながら空中に飛ぶことができる巨大生物のバラストの説明が、前半がまったく逆で、その後に本来の使い方の話が並列されているのはいくらなんでも気がついて欲しいものだ。


多分2作目は読まないと思う。