李陵・山月記

李陵・山月記 (新潮文庫)

李陵・山月記 (新潮文庫)

中国の古典の登場人物たちに著者独自の肉付けをして一個の物語とした短編集、というのが解説を読んで分かったこと。古典に増資が深くないのでそのあたりはよく分からなかった。物語としては秀逸で、淡々としながらも登場人物たちの内面が掘り下げられている感じがした。
もともと「山月記」が読みたくて買ったものだが、最後の「李陵」がかなり良かった。「山月記」は想像通りの中国的悲劇、しかも絶望的なハッピーエンドなところが。「李陵」はタイトルと中身が微妙にあっていないと思っていたら、解説によれば作者死後に付けられた題名であったことが分かった。信ずるものに準じて後世から義人と称される生を生きるか、信じていたものを捨てて新たな人生を生きつつ苦悩し続けるか、一個の人であることを諦めて取りかかった大仕事を完遂させるためだけにその生を賭けるか、三者三様の生き方が考察された物語。そのうち司馬遷が壮絶であった。その叫びが『史記』の登場人物たちの言葉に隠れているかのように書かれてあったが、これは著者自身の姿なのかもしれない。
現在ならなくならないであろう病気で、戦時中だから若くして死を遂げた著者の、最後の年の作品の数が非常に哀しい。
読みかけの本あと2冊だがこの状態だとどちらも読み終わらないかも…。