となり町戦争

となり町戦争 (集英社文庫)

となり町戦争 (集英社文庫)

何年か前の「本屋大賞」みたいのになった本だったな。気になったのはそのときに平積みになっていたからだ。


町の広報誌で「となり町と戦争を始めます、期間は9月1日から翌年の3月31日の予定」と言っていきなり始まる戦争。
戦争の目的は「地域振興」や「愛郷心増強」や「となり町との友好」で、お役所的手続きでもってまるで公共工事のように淡々と進む。戦闘域拡大のための住民説明会でも、「騒音の問題」や「子どもの幼稚園への送り向かいの時間帯」や、「家の破損(窓ガラスとか)」といった質問ばかりで、道路工事の話としか思えない。主人公は役所の呼び出し状である種の「スパイ」的任務に就くが、普通に隣町を通過してその先の職場に行き、普通に仕事をし、普通に家に帰って、普通に暮らす。どこで戦争が、どこで闘争が起こっているのかサッパリ分からず、行政によって一人だけ「スターどっきり丸秘報告」にあってるみたいな感じ。それでも広報誌に載る戦死者の数だけが増えていく、という設定としては人を喰った、ドライでそれでいて辛辣な風刺が突き刺さる感じ。
終戦公共工事のようにいつの間にか終わってました、といった感じ。どちらが勝ったかも分からない。戦争の目的はそれではないのだ。
文庫版に新たに「別章」が加えられていて、途中まで読んだときには「蛇足」に感じていたが、読み終わったときにこれはこれであってもいいな、と思った。ちょっと教訓臭いのが難点だったけど。結局、戦争をして、人が死んで、それでも地域振興はうまくいかなかった感じが、現在の過疎化する地方の現状をさらけ出す、という意味では。


象徴的人物はやっぱりあちら側に行ってしまったのに、それが分かっているらしいのに、あくまでも何もかも普通であるかのような職場の上司だな。
そして香西さんが謎すぎる。こちらは「行政側」を象徴した人。