辺境のダイナミズム

まだ選挙も始まっていないのに名前を連呼する車を走らせ、選挙中は遠慮する信号待ちでも名前を連呼するのはいったい何なの?


辺境のダイナミズム (ヨーロッパの中世 3)

辺境のダイナミズム (ヨーロッパの中世 3)

「辺境」というのは西欧中心主義から見た場合であって、中心を定めなければ辺境もまたある意味中心、という、歴史の視点の転換を促す書。3部構成でスカンジナビア、東欧、南欧(スペインとシチリア)を、それぞれ3章ずつ、地勢史、社会史、文化史と適宜にまとめられている。が、残念なことに後ろに行けば行くほど微妙になった。東欧に関してはその扱う地域が広く、拡散した印象になってしまうのはしょうがない。恥であったからこその新たな宗教の運動(フス派→プロテスタントへの影響、とここまでは書いていないが)が起こる、というのは個人的にはおもしろかったが、いかんせん国が多すぎで、それらの地理的関係や興亡する国の拡大や縮小が目に見えない、というのが残念。うごめいているんだなぁ、という印象まで。南欧に関してはイスラムと接する、ということで辺境扱いなのだが、イスラムとは宗教的違いというより本来最初は政治闘争、それはキリスト教国家とイスラム教国家の連携と敵対関係の複雑さから見れば明らか、しかも文化的にも矯正している部分も多々あった、というのが話の中心の一つなのだが、それにしては「レコンキスタイスラムを追い出す」的な始まり方で、先入観を持たせてしまう危険性を孕んでいる。また、スカンジナビアについては最新の研究状況も含まれていたが、あとの二つはこれまでのまとめ的性格に留まり、一般書としてはそれでいいのかもしれないが、門外漢の人間であっても中世史を学んでいるものとしては少々物足りない。
219ページのトゥール・ポワティエ間の戦いで、フランク軍は「イスラーム軍を大敗させ」という表現はちょっと動かと思う。これではフランクがイスラム全体を負かせてヨーロッパを守った、という通年のままなのだが、このあたりの専門家としてこの表記は問題ないんだろうか。それから最終章が蛇足。3部で書ききれなかったものを書き足していると思わせることが多すぎで、相違が大きく三つの地域のまとめを総括するのは難しいとしても、記述に偏りが目立つ。3文を読みながら「イスラムイスラムといっているがここって実はイスラム教・キリスト教ユダヤ教の三大宗教地域じゃ」という部分がここで語られているのが残念(文化史で突然出てきたユダヤ人の説明はその前にあって欲しかった)。さらに、311ページの、一文に現れている「フリードリヒ2世」と「フェデリコ2世」は同一人物ではないのだろうか? もしそうだとしたら記述は統一してくれないと困るなぁ、と。


私にとってはほとんど知らない地域であり(南欧が辺境か、といわれると初期中世史としては「世界の中心じゃん!」と思ってしまうのだが)、それなりに楽しかったが、後ろに行くに従ってちょっとね、という微妙な感じになるのが読後感としては非常に残念。第1部が最もきれいにまとまっていた、という構成がなんかね。