プリオン病

風邪でウダウダしている間に読んだ本。

眠れない一族―食人の痕跡と殺人タンパクの謎

眠れない一族―食人の痕跡と殺人タンパクの謎

1765年11月、水の都ヴェネツィアで評判の高い医師が謎の死をとげた。この医師の子孫の多くが、同じような病で命を落としていく。呪い、疫病、脳炎、性病、奇病と、さまざまなレッテルを貼られながら・・・共通しているのは死の数ヶ月前から眠れなくなること。
数世紀を経て20世紀も終わりかけた頃、この致死性不眠症の原因が、羊たちに流行した震え病であるスクレイピーパプアニューギニアの部族を襲ったクールー病、そして世界を震撼させた狂牛病と同じく、殺人タンパク、プリオンとわかったが、治療の目処はつかない。
そうこうするうちに、アメリカの野生の鹿に似た病気が蔓延、新型クロイツフェルト・ヤコブ病
拡大が噂される中、殺人タンパクの起源を辿るうちに、80万年前の人類の「食人習慣」の事実にたどりつく・・・「事実は小説よりも奇なり」を地でゆく、驚きのストーリー

プリオンという生物ではない単なる異常タンパクによって感染する病気の原因の発見、その仕組みの解明という医学系ドキュメンタリー。タイトルからの物見高いといういささか不謹慎な理由で読み始めたもの。内容としては、「未知の病気と闘う医学者たちの苦労」というより、学者とそれと関わる研究所、政府、製薬会社等の政治的・研究的闘いから見る、醜い人間像、みたくなってる。政治力があって集金力があるエゴの強い権威的学者による、他の研究者の論文潰し(自分が査読委員になっている権威誌への掲載の拒否とか)、政府による検閲によってほとんど内容がなくなってしまった論文とそれに唯々諾々と従ってしまう御用学者とか、ロビー活動の強い団体によって情報隠しをする政府とか、半分ぐらい人災じゃないすか、これ、といった感じ。斜め上の直観力を持つある種の天才学者っていうのは、強烈な個性の持ち主なのねぇ、これ自分には無理、とか思った。この手のドキュメンタリーは、その実「人間像」を浮かび上がらせるものとしての読み物である、と。
プリオン」の命名の仕方や、「プリオン」を「発見した」生化学者(スタンリー・B・プルシナー。医学者じゃないのだ)(他の研究者の研究を潰したり、勝手に援用したりする研究者なんだが。そばにいたら無茶苦茶やなヤツなんだが、研究者といってもしょせん人間、と思わせる非常に興味深い人物)とか、その陰で多くの人命が失われ、タイトルの「眠れない一族(致死性家族性不眠症、という恐ろしい名前の病気)」の苦悩とかが解決されない悲哀とか、社会の仕組みってなんて非情、と思わせるものだった。
で、プリオン病がらみで、つまりBES(Bovine Spongiform Encephalopathy―牛海綿状脳症、この病名も、畜産業への打撃をなるべく軽減するようにとする英政府によって「ワザと覚えにくいように」名付けられたらしい)由来の変異型クロイツフェルト・ヤコブ病の危険性、という理由でわたしは献血のできない人間になってしまった。体内に異常プリオンが存在していて、日々、正常プリオンを異常タイプに変えていって、脳に蓄積されてるんだろうか? 
ちなみに日赤による「献血しちゃいけない海外渡航者」は以下の通り。

(1) 英国に昭和55年(1980年)から平成8年(1996年)までに1日(1泊)以上の滞在歴のある方。
(2) 英国に平成9年(1997年)から平成16年(2004年)までに通算6か月以上の滞在(居住)歴のある方。
(3) アイルランド・イタリア・オランダ・スペイン・ドイツ・フランス・ベルギー・ポルトガルに、昭和55年(1980年)から平成16年(2004年)までに通算6か月以上の滞在(居住)歴のある方。(通算6か月の計算には(2)(4)の滞在(居住)歴も含みます。)
(4) スイスに、昭和55年(1980年)から今日までに通算6か月以上の滞在(居住)歴がある方。(通算6か月の計算には(2)(3)の滞在(居住)歴も含みます。)
(5) オーストリアギリシャスウェーデンデンマークフィンランドルクセンブルグに、昭和55年(1980年)から平成16年(2004年)までに通算5年以上の滞在(居住)歴のある方。(通算5年の計算には(2)(3)(4)(6)の滞在(居住)歴も含みます。)
(6) アイスランドアルバニアアンドラクロアチアサンマリノスロバキアスロベニアセルビア・モンテネグロチェコバチカンハンガリーブルガリアポーランドボスニア・ヘルツェゴビナマケドニア、マルタ、モナコノルウェーリヒテンシュタインルーマニアに昭和55年(1980年)から今日までに通算5年以上の滞在(居住)歴がある方。(通算5年の計算には(2)(3)(4)(5)の滞在(居住)歴も含みます。)

西洋史の研究者全滅っぽいな。わたしは(1)ですでにアウトだ。一日って、一日ってオイ・・・。原因と仕組みは分かっているが、今のところ治療法はなし。一例だけ、かなり両行に向かった例があるが、この患者のみにしか効かなかったようだ、
以下、こっそり。反転必須。
えー、アメリカ牛肉が解禁されている日本ですが、アメリカのBSEの牛の話や、検査方法や、政府による牛肉管理とか、変異型は一人も発生していないとか、アルツハイマーの人は全員間違いなくアルツハイマーだ、とか、っていうのはかなりぁゃLぃらしい。それにしても、CJD患者やその家族から始まったメーリングリストが、「わたしはCJDになってしまった、誰もわたしの苦しみを分かってくれないふじこふじこ」と、通常の生存期間以上(しかもその後半は普通の人間としての活動はほとんど不可能)の期間書き込んでいるメンヘラさんに占拠されてしまったりしてるとは、2ちゃんみたいなことって起こるのね、と思わせる最後の下りを読んで、なんかいっそう悲しい気分になった。原著は2006年発行。