聖遺物とは?

このところ(というか先月からずーっと)聖遺物やら、守護聖人やら、お墓やらの論文を読んでいて、最近は特にアイルランドにおけるそれらについての論文を読んでいるのだが、読んでいる内に分からなくなってきたのが、「何が聖遺物か」と言うこと。たとえば昨日読んでいた論文では、「初期中世アイルランドでは、corporeal relicsは無く、司教杖やベルがrelicsであった」と書かれているが、教会/修道院守護聖人の体(遺体)は切妻形式のshrineに納められ、屋根板(石)と板の隙間から手を入れて触れることができる様式であったわけで、これもrelicsの一つではないか、と思われるからである。(「大陸における「tomb-cult」の意味では」、アイルランドにはtomb-cultもなかった、としている論者もいた。確かに大陸みたいに墓地で「病気が治った!」的な奇跡の話はない。そもそも、聖人の墓地の意味がアイルランドではかなり特殊であったから。「特殊」という言葉は使いたくなかった・・・。)
要は論文の作者それぞれの relicsの解釈が違うらしいのだ。上記の作者はおそらく持ち運び可能なものをrelicsと呼び、墓地に埋葬されているか、translatioによって切妻形式のshrineに(大陸と違って聖堂内に移送されないのがアイルランドの特徴なのだが)再度埋葬された「遺体」はrelicsと違うものとして話を進めている様なのだ。しかし、教会/修道院墓地に、その教会/修道院守護聖人(たいていはその教会/修道院の創設者)が埋葬されていること、そのことが初期中世アイルランド教会では真に重要な点であることから、これらをrelicsの一つとして考えても良いと思われる。その場合「アイルランドにはcorporeal relicsはない」という結論には至らず、ただし遺体を、特に中世中期以降に激しくなるように分割して配りまくる(売りまくる)状態ではない、ということになるわけだ。しかもその理由は、4〜6世紀のローマのように「仮にも遺体をdisturbするのは瀆神的である」、という理由ではないところがまたミソなのだが。
なんだか分からなくなってきたので、New Catholic Encyclopediaでrelicの項を引いて調べてみたが、歴史的発展についてはやはり、西ヨーロッパでは始めは都市外の墓地に埋葬されていた聖人の墓の上に教会なり聖堂なりを立てた、というところから話が始まっているところを見ると、墓地に埋葬された聖人の遺体も、relicsとして考えて良いのではないかと思う。
という方向で自分の論は進めよう、ということにしました。


でないと、アイルランドでは墓地のことを(教会)ラテン語のreliquiaeから派生した古アイルランド語のreilicの第一義が「墓地」である話で論を進められないし。


どんどん日本語にできない単語が増えていくのが、不安といえば不安だ。shrineとか。聖堂? enshrinementとかどうすりゃいいのか、とか。