遠き神々の炎(上)

遠き神々の炎〈上〉 (創元SF文庫)

遠き神々の炎〈上〉 (創元SF文庫)

世界観が独特。銀河系の中心「無思考深部」、地球が含まれる「低速圏」、その外側の「際涯圏」、さらに銀河系のもっとも端を含む「超越界」。「際涯圏」はさらに上位、中位、下位の三つに分かれる。まずこれらの違いがほとんど説明されずに、「際涯圏」の上位に「移民」した地球出身の人類が、「超越界」の端っこの星でコンピュータ的な? 50億年前のものから「邪悪意識」なるものを呼び覚ますところから始まる。人工的なものの中から派生した超意識体、と思わせるがともかくなんだかよく分からない。そしてそこから逃亡する人びと、唯一逃げ出せた一家がたどり着いた星が下位際涯圏で、しかもそこに居住するものが犬のような形態を持つ、しかも複数の個体が集まることによって一つの精神を保つ知的存在。そしてたどり着いた一家の中で生き残るのが姉と幼い弟、しかも別々の敵対しているらしい別々の集団へと分かれる。これらを探すべく別の組織に所属する地球型の女性は、中位際涯圏にあるネットワークを管理しているらしいところのアーカイブに所属していて、と、世界観が特殊、さらに良くある話だが三つ別々に話が進む、というところで初めの半分ぐらいは何がなにやら。
それぞれの「圏」では物理法則が違い、人工知能の働きの速度が違い、ということがぼんやり分かってくるのが終わりの方にいたって、そして三つのうち二つがコンタクトを取り合うようになってようやく収束の方向が見えてきたらしいところで上巻は終了。際涯圏では超光速で物理的移動が可能だが、低速圏では頑張っても亜光速しかでないので、舞台の中心となる際涯圏では何千光年もぶっ飛べる、という設定は良かった。浦島効果も無さそうだし。
下巻を読み終わるまでは判断はしづらいが、相当なプロットを惜しげもなく一つの話の中に流し込んだ上に、それが無理のない状態で混ぜ合わさっているところに作者の創造性が際だった感がある。それぞれを無理矢理感じに当てはめたところは個人的にはやりすぎと思ったが、これはカタカナのママではさらに複雑で分かりにくかった可能性も多く、これはこれでいいかな、とも思った。
ただ、世界観の説明を上巻の訳者の後書きに書くほど分かりにくいか? とも思わされた。しかも読み終わってから読んだからくどい。始めに読むといいかといわれればネタバレしてるから何ともいえないし。なんだかよく分からない世界の中を、なんだかよく分からない存在が動く姿を、少しずつ読み進めることによって理解していく、というのがSFの醍醐味だと思うんだけどなぁ。