生物と無生物のあいだ

生物と無生物のあいだ (講談社現代新書)

生物と無生物のあいだ (講談社現代新書)

表紙に思いっきり書いてあるのね、「生命とは何か?」と。これは煽りだと思っていたのだ。そしたらタイトルがわたしにとっては煽りだったわけだ。
長い間平積みになっていたし、賞も獲っているし、超ロングセラーだし、こちらも長い間気になっていたところやっと読んだわけだが、わたしの想像していたものとはずいぶんと違った。わたしとしては「生物=自己複製」的なことは分かっていたので、DNAを持っている細胞に寄生しなければ増殖できないウイルスは生物なのか、とか、DNAもRNAも持っていないのに徐々におかしな仲間を増やす異常プリオンは生物なのか、とか、だんだんと結晶が増えていく例えば紫水晶は生物なのか(生物じゃないのは分かってはいるが)、そうでないのなら自己複製とか増殖というものの、生物学的な特徴はなんなのか、とかそういう話だと思っていた。つまり、生物と、無生物の、どちらとも素人には言い難いものを扱うと。
本書の前半は生物が自己複製するその大元、DNAのその発見の歴史、後半は体内において大きな働きを担うタンパク質の中のある一つのものの、その特徴とある種の発見と生物と機会との違いと、という話。
個人的に非常につまらなくて何とかして欲しいと思ったのは、随所に書き込まれる自然描写とか、景色や季節に関する記述や、そして特に著者の留学時代の話や著者が関わった研究話の細かい下り。優秀な学生であり優秀な研究者であった自分、というところが異常に感じられたのはそうでなくこんな感じで半分腐りかけている院生だからなんだろうか。そうなんですよきっとそうなんですよ。だってこんなに売れてるんだからみんな普通に面白いと思って読んでいるんですよ。
後半の話は賞レースも絡みそうな話であり、実際にどのように実験しているのかもかいま見れてわりと面白かっただけに、前半部分については非常に残念。
個人的には、著者が付けたのか編集が付けたのか分からないが、タイトルの勝利、という感が否めない。


追記:読書メーターの他の人たちの感想を読んで気が付いたのだが、内容的に難しいと感じた人たちは前半部分を面白く感じ、後半部分が専門的すぎるとしている一方で、後半部分の方を面白いと感じている人たちは、良質の科学ドキュメンタリーを求めていて、わたしが鼻につくと感じた部分を話の流れを止めるものとしてとらえているようだ。つまり、この手の科学的なものを扱った本を読む読者には、難しい科学的なものを読みやすく分かりやすく理解したいとする読者と、科学の発見や研究それ自体がロマンでありその部分の一般には表に出てこない裏側を知りたい読者に二分されているのかもしれない。