金色夜叉

金色夜叉 (新潮文庫)

金色夜叉 (新潮文庫)

格調高い美文(文語体)で書かれたドロドロのベタベタの昼メロ。この文体でなければきっと読み切れなかったと思う。男は感情から理性にいたって理性的に切れ、理性によって構築した自分を固持することでついに後悔し、そして真人間になるのか(未完だから分からないが)、女はひたすら感情に生き、感情で動き、感情をぶつけ、感情によって自らを殺す、ということなのかな。男はその固く閉じてしまうところがバカであり、女は一時の感情(女にはこれしか自らを高める生き方はない、と思ったとしても)に任せて自らの運命を曲げてしまうところがバカである。みたいな?
明治どころかおそらく高度経済成長期以前の女性だったら宮に感情移入できたのだろう。でもオイルショック以後に生まれた世代、男女雇用機会均等法のちょっと下の人間としては、甚だ我慢のならない女だ。完全に貫一に感情移入してしまったし、まだ尾崎紅葉もおそらく貫一の内面を描写することに重きを置いて、宮の感情にはほとんど入り込んでいなかったように思える。
激情は、読点を多用した文語調で迫られるとこちらも非常に煽られる、ということを知った。
ちなみに、宮が「殺して欲しい」と迫った時に貫一が激して「自分で死ね」と言ったところで笑ってしまった。昼メロを喜劇としてみてしまう状態ってこれだわ、と思った。
ああ、熱海行きたい。