創世の島

ジュブナイル用なので話も短く字も大きかったので、見えづらい状態でも良く読めたのよ。

創世の島

創世の島

終戦争とそのときに使われたらしい生物兵器による疫病の蔓延から、唯一難を逃れ物理的にも鎖国したある島国。そこに暮らすある少女(歴史学者志望)が、その社会のために奉仕している「アカデミー」にはいるための最終試験、4時間の口頭試問を受ける話。その中で語られるのは、最終戦争後(といっても2020年代ぐらい)に構築されたその島の共和国体制、それはものすごく人工的に作られた社会と共同体であったが、それを揺るがし、アカデミー体制へと転換するきっかけとなったアダムという青年の人生について。彼は仲間を裏切って、疫病の島内への侵入を防ぐために海岸地域で発見されたら速射殺されるべき「外界人」の少女、仮に「イブ」と呼ぶ少女を救ってしまう。
アダムという名前にもイブという名前にもある程度は意味がある。皮肉にも逆説的に。少女の名前がアナククシマンドロスとか共和国建築者がプラトンとか、少女の指導教官がペリクレスとか、そしてアカデミーとか(どうせならこれもアカデミアとかに訳せばよかったのに)というギリシャ哲学者(ペリクレスが政治家であることも意味がある)の名前であるのも皮肉として(と私は感じた)意味がある。ストレートな意味もある。ここで語られるのは「思考」と「意識」についてというまさに哲学そのものだから。(ちなみに対話形式なのは完全にプラトン
歴史学の口頭試問であるのに、少女の主観が問われたりして、彼女は時々違和感を抱きながらも必死に考え答える。
最後の数ページで驚くべき世界が唐突にしかもあっさりと暴き出され、そしてラストへ。このラストを読むために巧妙に編まれた物語であった。おそらく最後を知ってから再び読み出すと伏線が張りめぐ出されているのがよく分かるのだと思う。普通に読むと伏線には見えないから。
かなり衝撃を受けたので読み返すのは少し待ちたいが、これはジュブナイルだとするのはあまりにももったいなさ過ぎる。すばらしいジュブナイルは大人の読書にも十分に耐えることを表すことを示す良書。
表紙にだまされたよ。表紙の少女はそうかよく見るとフェンスがあるから…。