虐殺器官

虐殺器官 (ハヤカワ文庫JA)

虐殺器官 (ハヤカワ文庫JA)

近未来における、科学的に精神調整を受けた暗殺部隊の兵士と虐殺を言語学的に制御する男。
ハードボイルド感はゼロ。人間の生きることへの苦悩はほんの少しだけ。
兵士の一人称が淡々と、激することも落ちることもなくまっすぐ進む中で現れる陰惨さの表現が逆に詩的に見える。人間が進化する中で自らが適者生存する上で身に付けた「利他主義」がほんの少しの考え方の違いでこれほどの極限に進むさまは、起こり得る可能性を包含しているのに、恐慌を感じさせないのはなんでだ。
虐殺を煽動していた男の理由は衝撃的。そしてそれによって突きつけられた刃は現在の日本人にも向けられているのがショック。最後まで作者の意図を良く理解した訳者によって和訳された海外の作品という感が抜けなかった。
読書にもそろそろ不便を感じてきための状況にもかかわらず読むのが辞められなかった。なんかもうね。


後書きのラストは卑怯だ。しかも友人のことを重ね合わせてしまった自分はあまりにも酷いや。長編は残り2作。しばらく時間かけて今度はゆっくり読む。どれほど時間をかけても増えることはないのだから。