言の葉の樹

マキャフリーもだが、ル・グインもSFとファンタジーというカテゴリーわけの無意味さを感じさせる。


新しく非常に進んだ文化と接触することで、自らもそれに追いつくために過去をすべて捨て去り、合理的な世界を構築した世界における、捨てることを強制された伝統、儀礼、言葉、そして過去が記録された書物を守る人たちと、彼らに共感を持つ同じく自らの文化を遺棄させられそうになった経験を持つ進んだ文化の代表者の主人公の話。
合理社会の狂信者である人物の、主人公側の視点から見たその不条理、強情さ、そして心の通う余地のない容赦のない行動すべてが、腹立たしく、逆に古い伝統を守る人たちの静かな抵抗に共感がもてる。
終盤にきて気がつく。文明開化以降西洋化が急速に進んだ日本は、共感のもてない側と同じじゃないか、と。現在の日本人による、古い伝統に向けている視線は完全に「オリエンタリズム」で、という話はいいとして、これは人類学的SFファンタジーといえる。社会学的ではないが。
古い伝統も実はそれほど古くまさそうで、しかも排斥される寸前にはどうやら腐敗し硬直化していたらしいことが最後に少しだけ語られるが、これからもう少し状況が良くなるだろう、という先に明るい終わり方で終わってしまって、その伝統やその問題が棚上げされてしまった感があったのが残念なところだが、おそらくそこはル・グインの視線が私とは違う、ということなんだろう。
一応ファースト・コンタクトものなんだろうけれども、そういう範囲では語れないジャンルだな。