『古代の皇位継承』

古代の皇位継承―天武系皇統は実在したか (歴史文化ライブラリー)

古代の皇位継承―天武系皇統は実在したか (歴史文化ライブラリー)

壬申の乱にその因を置き、当時皇統に「天智系」と「天武系」があった、とする日本の古代史における通説に一石を投じる、という目的で書かれた書。
史料の問題上から、始めの頃の論の進め方が少々強引。「とおもわれる」「にちがいない」「であろう」という言葉がやたら出てきて、特に古代日本史についての現状を知らないものからすると「史料は?」と聞きたくなる。ただ、文字史料が比較的多く出てくるころになると(特に聖武以降)、ナラティブ資料の読み方のお手本のような論拠の進め方で、非常におもしろく読めた。
要は二つの系統があったというよりも、天智を基点として皇統を確定し、「すめらみこと」の時代から「天皇制」の確立が行われ、幼少の子どもを天皇位に座らせる前に天皇の兄弟もしくは天皇の妻(寡婦)を中継ぎの天皇として政を執り行い(しかもその寡婦も近親婚のためそれ以前の天皇の娘)、皇統が途切れないようにする時代から、父である天皇から子である皇太子に皇位を繋ぐ要になった時代の変遷があった、とする説。その流れは非常に良く分かったが、二点、よく分からなかったのが突然藤原氏の娘が産んだ息子を皇太子に据える、という話が出てきたこと。それまでは近親婚で皇統を、という流れだったのが、鎌足不比等の偉大な功績が、という説明では一点納得がいかない流れになった。それと道鏡の話。事実として(少なくとも)史料上ではある道鏡の「天皇擁立」の理由が、あまりにも浮いていて、孝謙称徳天皇が二重人格としか思えなかった。
ある一つの流れを構築したところに無理やるこの二つを入れたが故の論の甘さか、と思われる。


それらは置いておくとして、この時代の女帝(皇極・斉明、持統、孝謙・称徳)がものすごくやり手の女たち、に描かれていて楽しかった。古代史を楽しむなら「続日本紀」を読むべきだ、が読後の感想。権謀術数の嵐。