イギリスのロマネスク

昨日の状態に更に咳が追加された。が、咳が出るということはこれ以上悪くなることはない、と思われるので良しとする。それほどきつい咳でもないし。


ここ数日、巡回しているブログで同じ本が紹介されていた。
芸術新潮2007年4月号「イギリス古寺巡礼――中世の美を訪ねる旅」

芸術新潮 2007年 04月号 [雑誌]

芸術新潮 2007年 04月号 [雑誌]

SCHOLASTICUS LUGDUNENSIS
Nordica mediaevalis
博物士
の3ブログである。
残念ながら日本にいないので実物が見れない。
アイルランドにも、ほとんどは遺跡、悪く言うと廃墟となってしまっているものも多いが、ロマネスク建築があり、それが大陸とはかなり違うので非常に興味はある。
あとからバックナンバーは取り寄せられるのだろうか。



そんなことより、後者ふたりの方が奇しくも引用された部分が気になった。

イギリス・ロマネスクの「飾り好き」は、物語表現を好んだ古代ローマの影響が大陸の国よりも小さく、装飾を好んだケルトやゲルマンの文化を色濃く受けついでいるせいでしょう(51頁)
(太字はブログ主による)

ケルト」という言葉なのだが、ここで何度も書いてもたかが個人のしかも単なる院生のブログなのでしょうがないのだが、そんなに簡単に使って欲しくないというのが、アイルランド史に携わっている多くのものにとっての共通概念、ということは少しは理解して欲しい。
なんとなく「イギリス」とは書いてあるがどうやら「イングランド」のようである。
細かいことを言うと、イングランドにおける写本芸術の伝統は、ブリテン島嶼写本(Insular Manuscripts)つまり、『ケルズの書』に代表される装飾過多の、しかも装飾のための装飾=文様の伝統を受け継いではおらず、ガリア、すなわち大陸から直接影響を受けたものになっており、文様というよりも物語性を写本の装飾に使っているように感じる。
同じ「芸術」にしても写本でこれほど違うのならば、その建築も違うのかそれとも建築はそうでもないのか、ちょっと気になるところであるのだ、個人的に。
問題の「ケルト」であるが、こういう場合に、私が言ってしまうのも問題はあるが実に使い勝手の良い単語ではある。他の選択肢として、一般にある程度認知されている言葉が、実はないのである。「ブルトン」になるのかも知れないが、一般に認知されてるとは言い難いし、「ゲルマン以前のブリテン諸島に住んでいた『土着の』人々」だと激しく説明的だ。
それでも敢えて言う。「ケルト」という人々はイメージの産物であり、その言葉に受けるイメージは人によって千差万別であり、使用できる範囲はこの言葉が「本当のもの」として認知されていた時代(19世紀)に確立した、言語学まで、というのがアイルランド史の研究者及びその卵たちの見解なのである。別にアイルランドの学者たちだけではなく、日本の学者たちも同じ見解を抱いているのだ(このあたりがやや不明なのがイギリスの学者と、どうやら無視しているらしいアメリカの学者)。


まあ、専門書じゃないからしょうがないんだけどね、引っかかることは引っかかるのよね。美術史には疎いからこれ以上は書けないけど。