ハウルの動く城

今更ながら初見。木村拓哉はいつもの「ちょっと斜に構えてて、昔は悪いこともしたぜ」的な変なキャラではなく、実は自分が精神的に弱いことを知ってる、頑張り屋(でもちょっとカッコつけ)という感じで、気持ち悪くなく見られた。それは良かった。
友人にも一人大ファン、という人がいるので、ちょっと期待してみたが、えーと主題がないというか、あるとしたら少女漫画崩れの「あなたが何者でもわたしは大好きだし、守ってあげるわ」的ヒロインががむしゃらに頑張る、という、やや色あせたテーマぐらいしか掴めなかった。つまり、個人的にはかなりダメであった。
なぜ戦争しているのかの背景がゼロで、戦っている人たちの描写は全くなく、単なるストーリー上の背景にしかなっていないことや、魔法使いハウルが身を賭して爆弾を落とす飛行機や、魔法使いのしもべ達と戦っている理由もよく分からない。敵も味方もなく「戦艦とは人を殺すものだ」と批判する場面があるが、戦争の背景がゼロなので、それらと戦っているのは、戦を嫌って平和を祈ってなのか、実は自分の師匠である魔法使いをしのぐための個人的なものなのか、まったく不明。師匠がハウルについて「心を悪魔に与えたので、心をなくした魔法使いはやがて悪のものになる」というようなことを言っていたが、それについてハウルも少女も悩まない。ハウルは子供時代孤独であったようだが、なんの複線にもならず放置。二つの国が、魔法使いをも巻き込んでの戦争をしている様であるが、戦う側の苦悩や、戦うことなく巻き込まれ死んでいったであろう者たちやその家族の悲しみの描写もない。主人公の少女が老女にされてしまうがその理由もよく分からない上に(これは単に、悪い心を持った魔女の行きずりの呪い、ということであるならかまわないが)、どうやったら元に戻るか、ということを探求するでもなく、気が付いたら元に戻っているし、それについて「戻ったわ」という感慨もない。ただただ、


なんだかよく分からない理由で、人間ではなくなってしまうかもしれない危険を冒しながら、いきなり「初めて守るものができた」とか言っちゃって一人戦う魔法使いの少年を、「自分も守らなくちゃだワ」とか言って、なんで好きになったのかよく分からない、できすぎの少女も闘い、命危うくなった魔法使いの少年を自らの愛と、過去のいきさつらしきことで助け、その結果、相思相愛になって幸せに暮らしますた、メデタシメデタシ


っていう筋だと、少女漫画としてもダメじゃないか? 一応ハウルが少女を好きになったらしい理由も描かれていたが、説得力に欠けるし、大本となる二人の心の通い合いの描写がなさ過ぎる。しかも少女の純粋性だか優しさだかで、戦争しあう片方の国は戦争を止めそうな感じだし、もう一方のハウルの師匠の方も「止めましょうか」と言っていきなり止めそうだし。始まり方は面白そうだったのだが、どこにフォーカスしていいのか分からないまま、気が付いたらスルーしてても問題ないことだらけで、「二人の愛が成就したので良かったね」という終わり方。爆弾イッパイ落とされましたが、なにか? といった感じ。


原作を読んでいないので何とも言えないのだが、話を一通りまとめるためにはしょりすぎたんじゃないか、と思わせる出来映え。テーマもがなにも見えない、絵が綺麗なだけのアニメ、に思えた。もし今度友人にあって話す機会があったならば、どの辺が面白かったのか聞いてみたい。純粋な興味だ。わたしにはまったく分からなかったから。


追記
wikipediaで簡単に調べたところ、原作と映画は設定も含めてかなり話が違うようだ。特に後半が相当違うらしく、更に戦争はアニメ独自のもの、ということ。変更に関しては原作者からOKをもらったようだが、ヘタに戦争を入れたことでテーマが散漫し、加えてなんのために戦争を加えたのかよく分からない状態に終わってしまったことを考えると、この変更が失敗の一大原因、である可能性が高いようだ。