古代中国の虚像と実像

古代中国の虚像と実像 (講談社現代新書)

古代中国の虚像と実像 (講談社現代新書)

頂きました。ありがとうございました。
見えない敵と戦っているようだ、作者は。現行の世界史の教科書は嘘ばっかり! と腹立たしく思うのは学部生まででいいんじゃないかなぁ、せめて修士までで、いいと思う。いちいち「世界史用語集」の記述をあげつらって否定するのはどうもなぁ。あんなに短い記述なんだからしょうがないじゃないか…。三分の二は「こう書いてあるけどこんなことは実際分からないからこれは作り話で本当ではない!」「書かれた時代は百年以上後だから作り話がいっぱい混じっている!」だから真実の歴史じゃない、という流れ。真実の歴史ってなに…? 読書対象者は世界史的知識で歴史にそれなりに興味を持っている人で、そのような人たちに「教科書には書いてあるけど本当はそうじゃないんだよ」ということを、やや過激に説く、という形なのだろうけど、では本当はそうでなかったものが、なぜ記述され、残ったのか、というところまで少しは書いて欲しかった。否定するまでは簡単なんだよ…。否定的なことを断言するなら、それに代わるものを提示して欲しいんだよ。
後半三分の一は舌鋒も少し収まっているかに見えたが、タイトルが煽っているのは致し方ないのか。「中国の統一は始皇帝の力ではなかった」というタイトルで、その実「秦による中国統一は三代にわたる事業だった」というのはあまりにも穏当。このあたりから突然歴史学的になったのが異常に感じるから前半がすごかったからなぁ。
個人的に面白いと感じたのは、戦国時代においてそれ以前の春秋時代を高く評価していたこと。ものすごく昔ではなく、それでも手が届かない程度には遠い昔のことを、理想的な世界と考えてしまう原因が、戦国時代にはあった、ということがうかがい知れる。ここに社会や文化の何らかの大きな変化、そしてその変化がよいものではない、と思う下地が形成されたのか、それとも変化ではなく現実を、それ以前を理想とすることで逆に悪い状態であることを表現しようとする状態であったのか、そのあたりが知りたいなぁ。