ケルティック(笑)・ミステリー

蜘蛛の巣 上 (創元推理文庫)

蜘蛛の巣 上 (創元推理文庫)

蜘蛛の巣 下 (創元推理文庫)

蜘蛛の巣 下 (創元推理文庫)

7世紀アイルランドの修道女にして「弁護人(苦笑)」シスター・フィデルマ・シリーズの5弾目にして邦訳第1作。1巻目よりはつんでれ度が増してまあかわいくなったよ、フィデルマ。
ミステリーは読み慣れていないので出来については何ともいえないが、個人的に言えば上巻の3分の2あたりで「あまりにもあやしすぎる人物」が登場して「イヤ、このままではないはず、きっとどんでん返しが」と思って下巻を1日で読み終えてしまったわたしをあざ笑うかのようなそのまんまの展開。下巻まで事件は延々と続くのだが、犯人は変わらず。えぇぇぇぇぇぇぇぇ。


本当は訳語についてとかカタカナ表記についてとか(特に後者については英語読み、現代アイルランド語読み、古アイルランド語読みが混ざり合っていてどれかに統一して欲しかった)についてツッコミ入れようと思ったんだが、日本語で読める文献は(しかも一部に関してのみ)一冊しかなく、初期中世についてもご存じないであろう訳者さんにとっては、大変であったろうから止めとく。一言だけ苦言を呈すれば、参考図書としてA Guide to Early Irish Lawを挙げているのに、これのテクニカル・タームの発音記号を無視するのは止めて欲しかった。現代アイルランド語と古アイルランド語は発音のルールが違うのだから。
一部の訳語の問題と、トンデモ研究者*1である著者の設定が大部分の問題であるが、

ともかく中世初期のアイルランドが、こんなにも法制度が整っていて、女性が活き活きと活躍できる世界だったとは驚き(amazonの書評)。

とか書かれてしまうのが残念。書評を書いた人じゃなくて作者の問題なんだが。確かにそう読めるし、実際にそう書いてあるわけで、私としては苦行に近かった。途中から「これは私が研究している地域でも時代でも、そしてこの世界ではないどこかよその世界におけるふぁんたじーなばしょのおはなしなんだわ」と自分を納得させて読んだ。突っ込みたかったら読んだんだが、その気力すら奪われた。
あと一部の書評という感想に、「古代アイルランド」と書かれているんだが、なんでだろう。初期中世なのに。7世紀ではかなり大陸に劣らない文化圏なんだけど。うう。


ああ、しょきちゅうせいあいるらんどってなんとごうりてきですすんでいてきっちりとほうせいびされただんじょどうけんのせかいなんでしょう(ぼうよみ)。


同シリーズは更に2冊邦訳が出ているようだがもう二度と読まないっす。
ちなみにもっと役に立つ部分がある参考文献。

ケルト事典

ケルト事典

これのカタカナ表記についても少々言いたいことはあるが*2、訳者(敢えて監修者とは言わない)はアイルランド語言語学を修めた人だし、歴史についてもかなりよく分かっている方。

*1:一時期かじったブリジットの話で、「彼女ももとはドルイドでその父親もドルイド」との記述があったが作者にソースは何か純粋に聞きたいもんである。寡聞にして彼女の聖人伝4つは読んだがそれらに書いてなかったのだが。イヤ、もうマジで。

*2:と言っても日本語にはない発音についてで、一冊にわたってぶれておらず統一されているのでその点は評価されて然るべき