おいしそうに感じないのはきっと贅沢のせい

ジャガイモの世界史―歴史を動かした「貧者のパン」 (中公新書)

ジャガイモの世界史―歴史を動かした「貧者のパン」 (中公新書)

アイルランド史を研究する端くれとしては読んでみないと。


北海道移民の中で、ジャガイモに命を救われた人たちに、足尾鉱山の公害で移民せざるを得なかった人たちがいたことを知って驚いた。その二重の苦労を重うと、近代化をひた走った世の中の歪みに苦しみ、そしてジャガイモに助けられた人たちが多かった、というのが本書の中心主題といってもいいかもしれない。
まさに「貧者のパン」。
確かにジャガイモがヨーロッパに入ったのはヨーロッパが近代に入った頃であり、三十年戦争以降の戦争に継ぐ戦争(だからこそドイツがヨーロッパ有数のジャガイモ大国になったわけでもある)、気候変動によるヨーロッパの寒冷化による不作、飢饉、そして産業革命による都市部への大量の市民の移動という時代を迎え、救世主となったジャガイモであり、その流れでヨーロッパ中に急速に広がった食物であったそうだ。
シベリアで広く作られるようになったのも追放されたデカブリストたちの働きが大きい、という革命の動きにも乗って広がっている。


その恩恵を最大に受け、それ故に「病気に弱い」という弱点のために悲惨な状況に追いつめられたのがアイルランドのGreat Famine(ジャガイモ飢饉、という名称は、実情を知ってもなお可笑しく感じてしまうことに困惑)であり、恩恵すら受けられずどん底にまで落とされたのは昭和初期の東北の大飢饉。
アイルランドでは百万人以上が死亡しそれ以上の人々が他国(主に英国と合衆国)に移民として出て行かざるを得ず、現在でも飢饉以前の人口(800万人)には届いていない。そして日本の東北地方では多くの女性たちが身売りされ、どのような人生を歩んだかも分からない。そして男たちは軍部によって「屯田兵」として満州へ移民として行き、日本の敗戦で翻弄される。
ジャガイモの話には、飢饉の話がついて回るという、結構重い内容の本だった。