三浦しをんと北森鴻

3冊とも少し前に読み終わってるのだが。
元飲み屋のオヤジにして骨骨団の仲間(といっても私と二人だけ)である先輩、nogu氏からの頂き物。


こういう等身大の主人公によるありふれた日常生活の小説を読むのは久しぶり、あるいは初めてかも。もらったりしない限り自分ではおそらく読むことはなかったと思われる。主人公はハーレクイン系の小説の翻訳家の若い女性。物語は彼女が自分の生活での不満・不安を糧に少しずつ原書を改訳して最終的にまったく違うお話にしてしまう、その翻訳部分と、彼女自身の生活が交互に書かれて進んでいく。原書の方は「若き女領主とその腕一本で立身出世したややワイルド系の騎士」という、ラブロマンス的騎士道物語。こういう本がいっぱいありそうで怖い・・・。
改訳版の女領主も、主人公自身も、最終的には男に頼る(というか後者の場合は「そのうち結婚してもいいか」という感じの彼氏との、今後も同じように続くであろうと思われた生活との決別)ことを止めて、一人でたち行く、という感じなんだが(うまく言えない・・・)、主人公の、彼氏のわがままに対する気持ちが、改訳版の結末で上手に説明されていて、主人公自身のウダウダした心情の吐露無く、それでいて理解できる心の動きが描かれていて、最後になって「すっげーいい話じゃん」と思えた。
翻って自分を見るに、わたしってかなり「依存型」というか、変化を恐れるというか、相手に頼り切ってしまう部分があるんだなぁ、と自覚するに至った。もうこの歳になっちゃうと「これではいけないから新しい自分になる!」的な性格改造はできないだろうし、できたとしても敢えて無理した性格では長く続かないだろうし、自分を騙してるみたいで途中で絶対にイヤになるだろうことは分かり切っているから、そんなことする気もないが、とりあえず「自覚している」という状態の方が、無自覚よりもよほどいいだろう、ということでこのまま生きていきまする。


凶笑面 蓮丈那智フィールドファイル? (新潮文庫)

凶笑面 蓮丈那智フィールドファイル? (新潮文庫)

《異端の民俗学者》蓮丈那智。彼女の研究室に一通の調査依頼が届いた。ある寒村で死者が相次いでいるという。それも禍々しい笑いを浮かべた木造の「面」を、村人が手に入れてからーーー(表題作)。暗き伝承は時を越えて蘇り、封じられた怨念は新たな供物を求めて浮遊する……。那智の端正な顔立ちが妖しさを増す時、怪事件の全貌が明らかになる。本邦初、民俗学ミステリー。

触身仏 蓮丈那智フィールドファイル? (新潮文庫)

触身仏 蓮丈那智フィールドファイル? (新潮文庫)

《わが村には特殊な道祖神が祀られている。》美貌の民俗学者・蓮丈那智のもとに届いた手紙。神すなわち即身仏なのだという。彼女は、さっそく助手の内藤三國と調査に赴く。だが調査を終えた後、手紙の差出人が失踪してしまったーーー。那智はいにしえの悲劇の封印を解き、現代の事件を解決する(表題作)。山人伝説、大黒天、三種の神器、密閉された昏い(くらい)記憶。本格民俗学ミステリ集。

というわけで、「民俗学ミステリ」なんだ。主人公は「美貌の異端の民俗学者(女)」とその研究室の助手、という典型的な「ホームズとワトソン」型だが、すべての話が、民俗学的謎と事件解決がほぼ同時進行に進むという、一粒で二度おいしいタイプ。わたしとしては事件解決より民俗学的謎の解決の方が、「なるほど〜〜〜」と思えたが。
で、「異端の民俗学者」と書いてあったまず思い出したのが、諸星大二郎の「妖怪ハンター」シリーズ。と思ったら、1冊目の最初に、

諸星大二郎先生の「妖怪ハンター」に捧ぐ

という献辞が!!!!!!! 2冊目の方には「暗黒神話」からの引用もあるし。つまりは諸星大二郎的世界+ミステリ、というものであったのだ。もろわたし的ヒット。
1冊目は二人が現地で事件解決、2冊目は蓮丈先生がどちらかというと「安楽椅子探偵」形式になっている。蓮丈那智はいろいろとどう美貌であるのか(やや中性的らしい)、説明されているが、どちらかというと知的で鋭利に過ぎる彼女のもとでびくびくしながらも、マゾヒスティックな喜びを感じてるような助手の方に魅力を感じた。そのうち胃潰瘍で入院しそうだけど。


自分ではであうことの難しかったであろう本を教えてくれて、ありがとうね、nogu。