アイルランド文学

というものにはとんと興味が無く、ジョイスがどうたら、イェイツがなんたら、ベケットがうんたら、といわれても全然分からないわたしのようなものにピッタリな本。一時帰国中には知らないで、ダブリンに戻ってからチラリと見せてもらったという間の悪さではあるが。

アイルランドの文学精神―7世紀から20世紀まで

アイルランドの文学精神―7世紀から20世紀まで


目次がネット上で見つからず残念であるが。7世紀から、というので私の研究時代もカバーしてあるし。岩波書店のサイトからの紹介文は以下。

英雄・妖精物語とイエイツ,ジョイスの文学とを架橋する精神の秘密とは何か.死者の世界から同時代を批判し,言語遊戯によって特異な時間意識と多言語状況を表現する.異界とパロディを二つの焦点とし,さまざまな時代とジャンルを自在に往還するテクストの海への航海──そこに既存のケルト・イメージとは異質な,比類ない文学史の図柄が浮かび上がる.


別にこれを描いてる人がアカデミックの人ではないのでしょうがないが、「ケルト」って言う単語を「アイルランドだから」という理由で軽々しく使わないで欲しい、という気持ちはある。いわゆる「ケルト・イメージ」は近代以降の産物なのだから、それ以前の文学にそれと異質なものがあるのは当然といえば当然。

松岡先生はもう一冊岩波から出版されているが、先生ご自身は「ケルト」という言葉の問題性をご承知、ということから鑑みると、このタイトルはどう考えても「これの方が売れる!」という理由で岩波にごり押しされた気がする。


ケルトの聖書物語

ケルトの聖書物語

中世アイルランド修道院文化が生んだ黙示録的・宇宙論的文学を,はじめて原語から邦訳する.ケルト的想像力と文体による聖書外典の代表作−創世神話と終末の黙視,キリスト伝と聖人伝.旧・新約聖書に採った物語の器に,航海譚や異界行という語りのモチーフと,魔術,幻視,聖なる木などの素材を盛り込んだ,もう一つの中世ケルト物語.


もう一つじゃない中世ケルト物語ってなんだ? ああ、アーサーとかトリスタンとかそういうやつかそうか。はぁ。



どちらもタイトルや紹介文には文句はあるが、内容は間違いない(1冊目は眺めただけなのではっきりは言えないが、おそらく初期のものは言語=古アイルランド語、から訳したと思われることから)。
妖精や神話的な「ケルト」の民とその文化が、キリスト教によって迫害、封印され、それでも密かに現代まで生き延びた、などというおとぎ話的アイルランドの歴史を信じてる人には一読して欲しい。