Fearless

日本公開時のタイトルは「SPIRIT」、アイルランドでは先月23日から公開。ということで見てきた。
清朝時代のコスチューム、髪型、弟子たちから「師匠(Master)」と呼ばれる姿を見て、「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナ」の黄飛鴻役がだぶって見えて、かなり違うイメージの役に慣れるのに時間がかかる。黄は、実物はよく分からないが、映画の中の姿としては、強いが義と徳のある人物、というイメージであったが、今回の役は強さこそが重要であり、その裏には必ず復讐を成す、という思想を持った人物(この役も実在の人物)として登場するので、初めの20分ほど(実際は初めの20分ではなく、過去話の、子役ではなくリンチェイが登場してからの20分)、映画に入り込めずに大変だった。「酒か、飲め飲め」「みんなガンガン食べろ」と大声でガンガン吠えまくるだみ声は、けっこうよろしかったが。


話の内容は、清朝末期のある一人の、強さとそれによる名声を何よりも重要と思っていたある武道家が、来る者拒まずといった形で弟子をその力量や精神性を顧みずに採用し、彼らにある意味「裏切られ」て、自分と同じような武道家を誤った「復讐」の名の下に、しかも本人はまったく正しいことをしている、と信じているのだが、決闘を挑み、瀕死の重傷を負わせ(数日後に死亡)、そのため自らも「復讐」受けることによって家族を失い、精神的に壊れてしまったところ、心ある少数民族たちに助けられ、心身共に傷を癒され、ついには「武道」は力を意味するのものではないと悟り、列強の下に屈服させられそうである同胞のために自分の才能を使い、人々に中国人としての誇りを示しながら、悲劇的な最期を迎える、という話。
最後のたたみかけるような展開があまりに速くて、自分としてはあっけない終わり方に感じられたのが残念。また、最終的な敵となる日本人(彼と対戦する武道家中村獅童)二人の描かれ方が少々劇画調で、それが日本人としては滑稽に見えてしまった。そのため、感動の最後がいまいち感動とならず。中国人を貶めることで西洋の列強と肩を並べることを良しとする日本人と、その男に使われることを分かっているにもかかわらず一人の武道家として義を保って、良心的に戦うことをモットーとする日本人、という、中国人(そしておそらく日本人)にも分かり易い二項対立的な描き方は、演出上、仕方がないのだろうが、少々残念。


最後に血反吐にまみれながらも、満足そうに微笑むリンチェイの姿は、「リンチェイには笑顔がないとダメ」とする自分としては、内容はともかく高評価(それ故に「HERO」はリンチェイ映画としては私の中での評価は低い)。「演技派」としての自分を表そうとする姿もかなりよかった。マーシャル・アーツ映画としてはこれが最後、としているらしいので。
ところでタイトルだが、これは日本公開時でのタイトルの方が内容と合っていると思われる。「恐れ知らず」は、「生まれ変わる」前の姿としては合っているが、その後の主人公は、「恐れること」を知っているからこその静かな強さを感じさせるのであって、その体内にあらためて「spirit」が生まれた、と私には感じられたからだ。


それにしても隣の客は良く笑う客であった。