宮城谷版三国志

全十二巻読了。
残念なことは、宮城谷昌光による個人を主人公にした小説による、その個人の心情の細かな描写が非常に少ないこと。ただでさえ淡白な彼の筆が、より淡白になって時々に現れる登場人物たちについてが、単なる紹介で終わってしまう感が多かったことか。
宮城谷はおそらく曹操を一番書きたかったに違いないと思わせるほど、曹操の人物造形は多かった。おそらく彼が全巻の中で最も徳と義を兼ね備えた人物だったからだと思う。その次に諸葛亮が彼にとって好ましい人物だったかと思われるが、それでも曹操に比べれば〜、という意図が読み取れなくもない。
できれば「曹操伝」とかにしても良かったのでは亡かろうかと。
劉備の人物像を描くのがもっとも難しそうであった。老荘思想的、とか、何事にも囚われない、といわれても、結局のところ感情に突き動かされて前後関係を考えない人物だな、としか思えなかった。国家形勢を自らの身体的には理解できなかった人物。
それでも晩年でそれまでの人間性を覆さなかったのは劉備で、曹操も最後は頭が固くなり、孫権に至っては国家の礎を崩す寸前にまでもうろくしてしまった。
結局三国時代とは、三国鼎立なんてものではなく、後漢王朝末期からの政治的社会的混乱期が続いていただけの時代にしか見えなかった。これが隋成立まで、あるいは隋も短命王朝なので唐まで続く混乱の400年間の一時代だったのかもしれない。
しかしなんで三国志は大人気なんだろうか。